夢の中で、優しく微笑むマナがいた。




その傍らには綺麗な女性がいて、嬉しそうにマナに笑いかけている。
決して豪華な装いではなかったが、女性の笑顔は華やかに輝いていた。



――― ああ……あの貴婦人だ……



夢の中の女性は、アレンが知っている貴婦人よりは随分若かったが、
間違いなく彼女だった。


夢の中のマナも、やはりアレンが知っている彼よりも随分若かったが、
その様子から二人が深く愛し合っているのがわかる。
女性の手は綺麗な顔とはうらはらに酷く荒れていて、
生活が決して裕福でないことを現していた。



「……あのね……マナ……
 私、子爵の家にご奉公にあがる事になったの……」
「え?あの家に?!」
「そう……知ってると思うけど、妹の具合が良くなくて、お金がいるの。
 それも、ちょっとやそっとじゃ手に入れることの出来ないお金が……」
「それは知ってるけど、それは……僕が何とかするって言ってたじゃないか!」



今まで微笑みあっていた二人が言い争う。
恋人の家族が病気で明日をも知れない命だという。
その治療費が今すぐにでも必要だという時、
彼女の元には降って沸いたような奉公話が持ち上がったのだ。


いくらマナがお金を用立てると言っても、すぐさま大金を用意できるわけはなく、
もし出来るとしたら、それはとてつもなく危険な方法に違いなかった。
愛しい恋人を危険にさらすよりも、自分の身を売る事を彼女は選んだ。



「貴方にこれ以上迷惑をかけることはできないの……
 私が愛しているのは……貴方だけだから……
 だから、もし離れ離れになっても、心だけはいつも傍にあると信じていて.。
 死んで私の魂が肉体から解き放たれたら、
 その時はすぐに貴方の元へ飛んでいくから……」



彼女が悲しそうに呟いた。
その瞳には穏やかな決意が込められていて、
マナはそれ以上何も言う事が出来ずにいた。
彼は危険な仕事を引き受けて、そのお金で彼女の妹を救おうと考えていた。
だがそのお金すら、彼女が身請けされるお金の足元にさえ及ばない。
自分の不甲斐なさに、拳をぐっと握り締め唇を噛み締めるしかなかった。



寂しげに遠ざかる彼女の後姿に向かって、マナは小さく囁く……



「きっとあの人なら、お前を大切にしてくれるよ……」



―――― 兄さんなら……きっと……



そして、マナはこの街を去った。
彼女と、彼女を自分から奪った実の兄の前から姿を消すために。










―――― ああ……マナは全てを知っていたんだ……
僕はマナの本当の姿を何も知らなかったんだね。
優しかった笑顔の裏にある、哀しみや苦しみを……
何も知らずに、僕はただ甘えていたんだ……
……ごめんね……マナ……



アレンは夢をみながら、自分の情けなさに涙を零した。













「……おい!……おいっ、モヤシ、しっかりしろ!」



生ぬるい涙が頬を伝う感触と、その頬を叩かれた痛みに
アレンは思わず意識を取り戻した。
飲まされた睡眠薬と媚薬のせいで気を失っていたのだ。



「……あれ?……ここは……?   ……カンダ……?」
「……ったく……呆けてんじゃねぇよ……ばかモヤシ!」



神田の悪態に、目の前の人物が神田本人だと認識したアレンは、
嬉しそうにその身体にしがみつく。



「よかった……本物の神田だ……」
「……ったく、心配かけてんじゃねぇ……」
「ごめんなさい……」



大好きな神田の確かな温もりにアレンは大きな安堵の溜息をつく。
それと同時に、神田の団服を羽織ったままのあられない己の姿に
慌てて顔を真っ赤に染めた。



「あ、あのっ……僕っ……」
「……痛くはないか?」
「えっ?」



神田は驚くアレンの手を掴み、
枷の痕で真っ赤に腫れあがった手首を黙って見詰た。
痛くないと言えばうそになるが、ここで正直にそれを言っても仕方がない。
己の不徳が招いたことだ。


大丈夫だと言おうとした瞬間、神田はアレンの腕を自分の方へと引き寄せる。
赤く腫れあがった傷跡を指でなぞると、ゆっくりと慈しむようにその唇を落とした。



「……あっ……」



唇の冷たい感触が全身を駆け抜ける。
その心地よさに、思わず瞳を閉じてしまう。



「……くすりか……汚い手を使いやがる。 やはり、殺しておくべきだったかな」
「そんなっ! あんな奴のために、神田が手を汚すことなんかないですっ!」
「しかし……まだ辛いんだろう?」
「それは……そのっ……」



神田の言う通り、アレンの身体にはまだ媚薬の効果が残っているのか、
わずかな刺激に反応して、その肌を上気させた。
幼い姿態から漂う何ともいえない色香が、神田の理性をも揺るがせる。
先ほど貴族の屋敷で見たアレンの姿を思いだしただけで
神田の中に不思議な感情が湧き上がっていた。



「あいつに……どこまでされた?」
「え?……いえ……その……」



さっきまでの出来事を思い出し、アレンは恥ずかしさに俯いてしまう。
いかに薬のせいとはいえ、好きでもない男の手で達してしまったなど、
大好きな神田に言うことなど出来はしない。



「べつに……大したことはされていません……」
「……ほう、大したことをされなくても、シーツに染みは作れるのか?」
「そっ、それはっ……!」



アレンは言い返せない悔しさに、顔を真っ赤にして唇を噛み締めた。
自分を助けに来てくれて、気を失った自分を此処まで運んでくれて。
その上、身体を気遣ってくれる優しい一面を見せたかと思うと、
今のように意地悪な言葉で自分を翻弄させる。
そんな神田に戸惑いながらも、愛しいという気持ちを拭えない。


手に触れた神田の唇の感触が、心地良いと思った。
いやたったそれだけで、間違いなく身体の中に欲望の灯が燈った。
それは薬のせいだけではなく、明らかにアレンが神田を意識しているせいだった。



「ただ……手で……されただけです。
 ……それ以上は……されてません……」
「……そうか……」



一瞬、神田がほっとした様子を見せた気がした。



「……かんだ……?」
「なら、早いトコ楽にならなきゃな……」
「……えっ……?……ちょっ……」



神田の唇が、言うよりも早くアレンの唇を塞いだ。
驚きに目を見開いたままのアレンも、その柔らかい感触に徐々に瞳を閉じる。
大好きな神田の唇……熱い吐息……
いつもただ見つめていたあの形のいい唇が、
今己の唇と重なり合い、優しく自分を求めている。
その事実を認識するだけで、
アレンは嬉しさのあまりどうにかなってしまいそうだった。


神田の舌で軽くノックされ、恥らいながらも軽く唇を開くと
そこから入り込んできた舌がアレンの口内へともぐり込む。
舌先を甘く吸われ、やんわりと絡め取られると、
甘い疼きが身体の中に沸き起こった。



「……んっ……んんっ……」



息つく間もなく舌を絡ませあい、角度を変えては互いを確認しあう。
感じやすいアレンの身体は、既に全身から力が抜けてしまい、
まるで何かに酔いしれるように、その口内を神田の好きにさせていた。



「……おい……もう降参か……?」
「……ん……ふうっ……」



長い口付けで真っ赤に染まったくちびるが、神田の中の欲望を煽る。
自分の腕の中で力を失ったアレンから羽織っていた団服を剥ぎ取ると、
今度は上から覆いかぶさるように、執拗にその唇を貪った。


甘く湿った舌に敏感な口腔の粘膜を弄ばれ、アレンは疼きに身悶えする。
神田の大きな掌がその白い肌に触れ、胸元や脇腹を撫であげられるたび、
気持ちよさのあまり意識を手放しそうになった。
ようやく開放された唇で荒い息を整えようとするも、
今度は耳朶から首筋へと熱い口付けを浴びて、余計に息があがってしまうのだった。


アレンの胸元の飾りは固く尖っていて、神田の指で弄られるたびに
漏れ出す声を必死で抑えた。
だが、そんなアレンの反応を楽しむように、神田は唇で、舌でその先端を弄ぶ。
ちろりと舐めあげられ、堪らずアレンは声を漏らした。



「……ふっ……ふぁっ……だめ……ですっ……」



まだ触れられてもいないのに、そそり立った分身は己の液で下腹部を濡らしている。
ひくつくその様は、神田の中にある支配欲をより一層膨らませるに充分だった。



「一度ぐらいじゃ薬は抜けないだろう……
 とりあえず一度イっておいたほうが良さそうだ」
「……ふっ……あぁっ……」



神田はアレンの腹の上でそそり立っているものをその手に包み込む。
熱く柔らかいその手で包まれただけで、アレンは快感のあまり背中を仰け反らせた。


手で軽く揉まれ上下運動をされると、甘い痺れが全身を駆け抜け
下腹部に溜まった欲望が弾け出ようと勢いを増す。
神田の手を自分の汚い体液で汚すことは躊躇されたが、
もはやそんな奇麗事をいってられる状況ではなくなっていた。


全身の血が滾り、肌が熱く火照る。
愛しい人の手に包まれることがこんなにも心地よく嬉しいものだとは思わなかった。
触れられた場所から相手の熱が伝わり、自分の中で膨張する。
身体の奥がたまらなく疼いて、一刻も早く欲望を吐き出せと言っているようだ。


神田の手で翻弄されている場所は、下腹部にぴたりと付くほど立ち上がり、
先端から先走りの液を滴らせる。
指先で軽く先端を弄られると、脳天まで電流が走り抜ける。



「……んあっ……ああぁっ……!」



アレンは一声高い嬌声をあげると、身体を軽く震わせ、
あっという間に神田の掌を白い液で汚していた。














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≪あとがき≫

いよいよ結ばれつつある二人〜♪

さて、次回も裏です★
神田×アレンの甘々エッチの続き……
是非、お楽しみください〜〜〜(⌒∇⌒)ノ""















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Spiritual whereabouts    11
           
――魂の在り処――